
広島市現代美術館は、エイドリアン・バーグ(1929-2011)の日本における初個展「エイドリアン・バーグ:無限の庭園」を開催します。バーグはそのキャリアの初期から晩年まで一貫して風景画を追求し、特に、1960年代からの約20年間、自身がアトリエを構えたイギリスのリージェンツ・パークを繰り返し描いたことで知られています。ひとつのキャンバスに複数の空間表現や異なる時間軸を織り込む独自のスタイルは、その後、イギリス各地の庭園や旅先の風景へと主題が広がる過程でさらなる展開を見せています。
本展のタイトル「無限の庭園」は、特に「庭園」という主題を描き続けたバーグの絵画的探究を指すとともに、そこで描かれている、天候や太陽の位置、季節の移り変わりによってとめどなく変化する自然の姿そのものを言い表しています。本展は、約50年に及ぶバーグの画業を通覧する国内で初めての機会として、初期作から晩年に制作された作品まで、豊富な関連資料をまじえてご紹介します。
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開催概要

エイドリアン・バーグ
イギリス、ロンドン生まれ
1929-2011

エイドリアン・バーグ Estate of the artist, Courtesy of FrestonianGallery and the Adrian Berg Estate
英文学、教育学などの専攻を経て、1961年、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業。初期には数学的、科学的思考に基づく、画面分割と再構成による絵画に関心を寄せ、60年代初頭からはアトリエの窓から見たリージェンツ・パークを描き始める。70年代末から庭園の風景を集合した、巨大な作品シリーズを開始。80年代にはいると、イギリス各地の公園や庭園を描くようになる。イギリス風景画の伝統を受け継ぎながら、同位置からの四季の風景をキャンバス中に再統合し、華やかな色彩とリズミカルな空間構成をもつ作品を制作した。日本では、1982年に全国を巡回しイギリスの現代美術の動向を取り上げた「今日のイギリス美術」展において、初めて本格的に紹介される。キャリアを通じて風景画を描き続け、従来的な遠近法や色彩理論にとらわれない独自の画風を確立した。
作品点数| 絵画およびスケッチブックなどの関連資料含め 約30点
展覧会のポイント
1. 日本初個展!初期から晩年作まで
エイドリアン・バーグは、イギリス風景画の伝統を受け継ぎながら、自身のアトリエの窓から見える景色や、イギリス国内、あるいは旅先の庭園や公園の風景を描き続けた20世紀後半のイギリス美術を代表する作家のひとりです。キャリアの初期から晩年にいたるまで、キャンバスの中に複数の視点や異なる時間軸を織り込み、華やかな色彩と独自の空間構成によって画面を再統合する絵画作品を制作し続けました。これまで主にイギリス国内や北米圏を中心に作家の画業が紹介されてきた中で、本展は日本においてバーグ作品を通覧する初めての機会となります。
2. 貴重な国内コレクションのひとつが当館にも
日本では、1982年に国内を巡回した「今日のイギリス美術」展において、はじめて本格的に紹介されました。本展では、イギリスからの日本初公開作品を軸に、国内でコレクションされている、東京都現代美術館所蔵の《グロスター・ゲート(リージェンツ・パーク)夏、秋、冬》と当館所蔵の《シェフィールド公園1985-86年秋》を加えた約20点の絵画作品を展示します。
3. 描く主題が変化した、ふたつの時期に分けて紹介
自身のアトリエから望むリージェンツ・パークを主題として描き続けた1960 年代から80 年代後半までの時期と、その場所を離れ、タイやオーストラリア等の旅先での風景や、イギリス各地の庭園へと主題が広がった90年代初頭から亡くなる2011 年までの、ふたつの時期に分けて紹介します。加えて、数学的・科学的な思考とも結びついていたバーグの制作構想がうかがえる、構図や配色のアイデアが詳細に記されたスケッチブックなど、豊富な関連資料も交えてご覧いただきます。

《3月の風景》1966 Estate of the artist, Courtesy of Frestonian Gallery and the Adrian Berg Estate
《グロスター・ゲート(リージェンツ・パーク)、夏、秋、冬》1982、東京都現代美術館蔵 (C) Adrian Berg. All rights reserved, DACS & JASPAR 2025 E5930

《シェフィールド公園1985-86年秋》1985-1986、広島市現代美術館蔵
《植物園、マデイラ、10月23日》2005 Estate of the artist, Courtesy of Frestonian Gallery and the Adrian Berg Estate

《ストアヘッド、6月25日、26日、27日》2000、個人蔵 Courtesy of Frestonian Gallery and the Adrian Berg Estate

作家のスケッチブック(シェフィールド公園の二連画、色彩メモ)2002 Estate of the artist, Courtesy of Frestonian Gallery and the Adrian Berg Estate
関連プログラム
オープン記念ギャラリートーク
展覧会場を巡りながら、本展企画協力者のマット・インクレドン(Frestonian Galleryディレクター)が展覧会を案内するツアー形式のトークです。通訳付。
日時|2026/1/24? 15:00-16:30
会場|広島市現代美術館 展示室B-1 ※要展覧会チケット、申込不要
学芸員によるギャラリートーク
担当学芸員によるツアー形式の展示解説
日時|2/21?、3/22(日) 15:00-16:00
会場|広島市現代美術館 展示室B-1 ※要展覧会チケット、申込不要
アートナビ・ツアー
アートナビゲーターによるツアー形式の展示解説
日時|毎週?(日)?? 11:45-、14:45-
※3/15までは約30分、3/20以降は約15分の開催
会場|広島市現代美術館 展示室B-1
※要展覧会チケット、申込不要、1/24、25、イベント開催時のぞく
展覧会カタログ
◯「エイドリアン・バーグ:無限の庭園」カタログ
仕様|A5変型、64頁、日英バイリンガル
執筆|マット・インクレドン & ロロ・キャンベル(Frestonian Galleryディレクター)、
清水和音(広島市現代美術館学芸員)
アートディレクション・デザイン|芝野健太(ライブアートブックス)
発行|広島市現代美術館

カタログ表紙イメージ
同時期開催の展覧会
コレクション展2025-II 開催中-2026/2/1(日)
コレクション展2025-III+コレクション・リレーションズ [ゲストアーティスト:平野薫]
2026/2/14?-6/7(日)
オープン・プログラム「Hiroshima MoCA FIVE 25/26」 2025/12/20?-2026/3/1(日)
特別展「フィンランド スピリット サウナ」 2026/3/14?-6/28(日)
Hiroshima MoCA FIVE 25/26
隔年開催の公募プログラム!今回のテーマは「記憶」

隔年で開催する広島市現代美術館の公募展「Hiroshima MoCA FIVE」。
被爆80 周年を迎えた今年のテーマは「記憶」。
応募された 作品プランの中から、広島市現代美術館および特別審査員による審査を経て選ばれた 5作品を、展覧会として紹介するオープン・プログラムです。5つの視点から紡がれる「記憶」のかたちをご覧ください。
【応募総数】280 件 【入選】5 点
審査の流れ
広島市現代美術館および特別審査員・服部浩之氏(東京藝術大学大学院准教授、国際芸術センター青森 館長)による審査を経て入選作品5点を決定しました。12/20 から入選作品5 点を広島市現代美術館にて展示します。さらに作品設置後に実物審査を行い、入選作品の中から「広島市現代美術館賞」1 点と「特別審査員賞」1点を選出します。(賞金各20 万円、発表は1 月)
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開催概要

入選5 点(作家による作品解説)
イタイミナコ 《慎太郎も存在してるしあの犬も存在してる》2025

イタイミナコ《慎太郎も存在してるしあの犬も存在してる》2025
私の街には、AI に「慎太郎」と名をつけて語りかける人や、犬のぬいぐるみに景色を見せるように振る舞う人がいます。これらの行為は、虚実の境界に揺らぎを生じさせます。基町高層アパートの地下倉庫には、長い時間を経て手放せず残された物たちが静かに積み重なり、生活の痕跡や地域の歩みが終わりきれずに行き場を失い、眠ったままにいます。埃をまとった欠片と向き合うとき、住民の語り
は虚実をにじませ、像を結ぶように立ち上がってきます。本作品ではこうした「確かにある何か」が、一定の距離を保った、たゆたう影のインスタレーションとして地下から地上へ、個人の輪郭から社会の層へと波紋のように広がり、そっと照らし出します。
また、掘り起こしから収集された住民の語りの質感を自分の身体に通し、声や仕草を憑依的に演じるパフォーマンスをおこないます。「残されるべき広島」と「語られなかった広島」のあいだをにじませ、文字にとどめきれない質感もふくめ作品の内側でそっと昇華していきます。被爆や復興の語りに加えてAI との恋やぬいぐるみの生命をめぐる声もふくめ、溢れ出た出来事や感情をひきうけ続けている広島の人々の姿が本作の構成を支える要素となりました。
臼井仁美 《棚に枝、柱の気息、ケズリカケの木々》2025

臼井仁美《棚に枝、柱の気息、ゲズリカケの木々》2025
近年取り組んでいる活動は、人々が道具や家具として役割を乗せて使用してきた木製品を、削ったり削り取らずに木?を残して作る“ ケズリカケ” と呼ばれる方法で装飾し、木製品が木であった記憶を再び表出させること、同時にその木製品の持ち主であった人の記憶に接するもので、2022 年に秋田県、2025 年にノルウェー、そしてこの度の広島での制作に繋がっています。ケズリカケる行為を通
して、木製品が持ち続けていた木としての生命現象が再び解読され、枝葉を伸ばす姿が戻り、用途は無効化されます。持ち主の方との対話を通して伺うエピソードは、個々のひたむきな日常の中にあった人と木の関わり、歴史的情報や記憶を記録するものです。信仰の領域にもありながら木工の制作過程で意図せずとも現れては削り落とされるケズリカケと、役割を終える木製品へ目を向けることは、私たちの意識の中心からこぼれ落ち、周縁へ追いやられてしまうものへの眼差しであり、手元にあるものとの親密さの回復と、あるいは弔いへの思いを抱く精神的な実践です。広島での制作に寄せて頂いた木製品と人々の記憶は、私たちの生活の中に残る森、織りなす意味を携えた森を知らせてくれます。
宇留野圭《40 の部屋》(仮題)2025

宇留野圭《26 の部屋》2023 [参考作品]
舞台芸術や映画のセットを模した張りぼての造作によって構成された40 個の部屋が、複数のダクトによって繋がれ、一つの大きな機械や街並みのような集合体を形成している。各ダクトにはタイマー制御のファンが取り付けられており、部屋の空気を排気しながら循環させている。また、ダクト内部にはパイプオルガンの構造が施されており、空気が流れ込むたびに音へと変換され、展示空間全体に鳴り響く仕組みとなっている。 伽藍堂の部屋内部は、全面グレーで抽象的で無機質、スケール感の曖昧な虚構の世界を象徴的に表現している。
私は「記憶」を思い描くとき、「記憶に蓋をする」などの言葉の様にしばしば箱に閉じ込められた空気のようなものを想像する。それは、断片的でありながら体系的でもあり、曖昧でありながら明瞭でもあり、可変的でありつつ不変でもあるという、捉えどころのない存在である。こうした抽象的な記憶を“見えない空気”として捉えて、箱としての部屋、そして空気が音へと変換されるプロセスを通じて、その輪郭を浮かび上がらせ、記憶そのものの構造化に試みている。
桑名紗衣子 長坂絵夢 《私達の霧箱》2025

桑名紗衣子 長坂絵夢《私達の霧箱》 2025
《私達の霧箱》の制作にあたって、10 月20 日に本会場を訪れ、拡散霧箱を使って放射線を可視化する実験を行った。その様子を撮影し、それらの資料をモチーフにしている。「霧箱」とは、1927 年にノーベル物理学賞を受賞したチャールズ・ウィルソンが発明した実験器具の名称である。地球上のどの場所においても放射線は確実に存在しているが、速く・波長が短く、普段は目に見えず、霧箱を使って可視化に成功したとしても数秒で消えてしまう。私達はこの霧の軌跡を人間が「記憶する」知覚感覚と結びつけて考えてきた。そして、この実験行為は、被爆地の記憶を持つ広島の地において特別な意味合いを持つだろうと考えている。人間が「記憶する」知覚感覚と、他者に伝えようとした途端にカタチを失ってしまう「記憶」
の物理的な不確かさの双方の有り様を捕まえ、相対的に伝えるために「編む」「模刻する」といった、できるだけ凡庸な方法を使っている。
桑名・長坂は、それぞれが20 年ほど素材・物質と向き合い(主に、桑名はセラミック・長坂は鉄)、立体表現を展開してきた作家である。2 人は各々の制作において、社会的時間概念から逸脱するように思える素材の物質反応を目のあたりにした経験を持つ。昨年から、協働してそれらの物質反応を捉える実験を行い、新たな表現を模索している。
洪鈞元 《義方―記憶の帰還》2025

洪鈞元《 義方―記憶の帰還》2025
《義方-記憶の帰還》は、作家の妻の祖父である林義方を中心に、記憶・歴史・地景の交錯を通して、彼が植民地期に日本へ留学し、広島原爆を生き延びたその生涯をたどる作品である。この展示では 、1930 年代の広島と嘉義の古地図を起点に、林義方がかつて生活し学んだ空間的な脈絡を再構成する。作家は妻とともに祖父の足跡をたどって広島を訪れ、成績表、通信記録、罹災証明書、踏査映像などを通じて個人の記憶を具体化している。また、林義方と台湾籍被爆者である莊司富子の幼少期の住まいは隣接しており、二人はいずれも青年期に広島へ進学している点で、互いに呼応する平行した軌跡を示す。作家はさらにアメリカへ赴き、莊司富子の娘みのりを訪ね、原爆資料や手稿を入手し、記憶の探究を地域と世代を越えて広げている。一方、本展では広島大学の川口隆行教授へのインタビューを通じて、長く顧みられてこなかった台湾人被爆者の歴史を明らかにする。最終的には、散文的な映像によって全体を結び、家族の記憶と歴史への思索に応答している。
関連プログラム
授与式+オープニング・リレートーク
当館館長の寺口淳治より、入選作家5 名/組へ入選証書を授与した後、展
覧会場にて、出品作家5 名/組と特別審査員・服部浩之(東京藝術大学大
学院准教授、国際芸術センター青森 館長) によるリレー形式の作品解説・
講評会を行います。
日 時| 12/20 ? 15:00-16:30
参加者|イタイミナコ、臼井仁美、宇留野圭、桑名紗衣子 長坂絵夢、
洪鈞元 、服部浩之
集合場所| B 展示室入口
イタイミナコによるパフォーマンス
出品作家のイタイミナコがパフォーマンス《慎太郎も存在してるしあの犬も
存在してる》を行います。
日 時| 12/20 ? 13:00- (約20 分、会期中の毎週土曜日13:00-)
アーティスト|イタイミナコ
会 場|展示室B-2、B-3
広島市現代美術館|Hiroshima City Museum of Contemporary Art
〒732-0815 広島市南区比治山公園1-1
TEL: 082-264-1121 FAX: 082-264-1198
https://www.hiroshima-moca.jp