
AIP Advances Editor's Pick 選出論文
広島商船高等専門学校(広島県豊田郡大崎上島町 校長:逸見真)の総合科学科 酒池耕平准教授と、共同研究者である広島大学大学院先進理工系科学研究科のJiawen Yu特任助教、東清一郎教授の研究論文が米国物理学協会(AIP: American Institute of Physics)「AIP Advances」に掲載され、令和7年10月3日「AIP Advances Editor's Pick」に選出されました。
超低温プロセスによる高品質SiO2薄膜形成技術を開発
~フレキシブルエレクトロニクスと脱炭素社会の両立へ~
研究チームは、これまでに大気圧プラズマを応用した独自のアプローチによりパーヒドロポリシラザン(perhydropolysilazane : PHPS)を、わずか65℃未満という超低温で約1000℃で形成した熱酸化二酸化珪素(SiO2)薄膜と同等の電気特性(J -E 特性、C -V 特性、界面準位密度、固定電荷密度)を示す高品質SiO2薄膜へシリカ転化させることに成功しています。
本論文は、2024年に AIP Advances に掲載され、「AIP Publishing Showcase」に選出された上記の内容を含む論文
“Silica conversion of polysilazanes by low-temperature plasma jet generated from Ar and water-vapor mixed gas” で得られた成果を基に、その根本原理に焦点を当てたものです。すなわち、なぜ1000℃で形成した熱酸化膜品質(J -E 特性、C -V 特性、界面準位密度、固定電荷密度)に匹敵する SiO2薄膜を、65℃未満の超低温で実現できるのかという問いに対し、界面駆動型自己組織化(interface-driven self-organization:IDSO)モデルを提唱、その根本原理を明らかにしました。
これは、超低温でも高秩序・高密度な三次元Si-O-Siネットワークが自発的に形成されることを示す画期的なモデルであり、従来は高温熱酸化に依存していたSiO2形成プロセスに対して、全く新しい低温酸化メカニズムの存在を実証的に示しました。
この成果は、半導体エレクトロニクスやフレキシブルデバイスなどの次世代製造プロセスに新たな選択肢を提供し、持続可能かつ省エネルギー型エレクトロニクスの実現に寄与することが期待されます。

MOSキャパシタにおけるJ -E 及びC -V 特性比較
【応用の可能性】
この温度は、プラスチックフィルムが変形せずに耐えられる温度域であり、従来のシリコンデバイス技術では不可能とされてきた条件です。
本成果は、以下のような幅広い応用分野に新たな道を開きます。
・高性能フレキシブルTFT(薄膜トランジスタ)のゲート絶縁膜
・フレキシブルIC/LSIの絶縁層
・透明エレクトロニクスの基盤膜
・ガスバリア層としての応用
また、この手法は真空装置を必要とせず、大気圧下で成膜が可能であるため、製造プロセスの簡素化・低コスト化・スケーラビリティの向上に寄与します。さらに、低温・低エネルギー型プロセスとして、次世代エレクトロニクスの脱炭素化技術基盤としても有望です。
【環境・社会への貢献】
プラスチックフィルムは軽量かつ低コストであり、再利用性にも優れています。
今回のSiO2薄膜形成技術を組み合わせることで、製造エネルギーの大幅削減と、リサイクル性の高い次世代電子デバイスの実現が期待されます。これにより、電子産業分野における脱炭素化・持続可能な社会の実現への貢献が見込まれます。
AIP Advancesはこちら↓
Ultra-low-temperature formation of high-quality SiO2 via interface-driven self-organization of polysilazane induced by atmospheric pressure plasma jet irradiation | AIP Advances | AIP Publishing
【開発者からのコメント】
私たちが開発した技術は、次世代フレキシブルエレクトロニクスへの貢献にとどまらず、分野横断的な技術融合による新たな製品や価値の創出にもつながる可能性を秘めています。この技術が世界中のさまざまな分野の方々に広く認知され、フレキシブルエレクトロニクスをはじめとする関連技術の発展や、ひいては社会全体の持続的な発展に貢献できることを心から願っています。
【広島商船高等専門学校について】
広島商船高等専門学校は、明治31年5月10日に豊田郡東野村外12か町村組合立芸陽海員学校として創立されました。その後、時代の流れに伴う変革を遂げ、平成16年、独立行政法人国立高等専門学校機構広島商船高等専門学校に移行し、平成17年に5年制本科教育に加えてプラス2年の専攻科として、海事システム工学専攻と産業システム工学専攻の2専攻を有する高等教育機関として発展してきました。また、令和7年度からは学科改組を経て「総合科学科」が新設され、商船学科とともに社会問題を解決できるDX人材の育成を目指しています。

校舎・学生寮全景(ドローン撮影)

校舎外観
【学校概要】
学校名:独立行政法人国立高等専門学校機構 広島商船高等専門学校
所在地:広島県豊田郡大崎上島町東野4272-1
校長:逸見 真
設立:1898年(明治31年)
URL:
https://www.hiroshima-cmt.ac.jp/
事業内容:高等専門学校・高等教育機関